
毎年恒例のテレフォン相談のお仕事。
相談員はおよそ90人ほどがヘッドセットをつけ待機している。
もう、6年目になる。
当初は間違いなくこなせるだろうかという不安が先に立ったが絶対に逃げずにやろうと奮闘努力の結果、たいていのことはご説明できるようになって相談者から感謝の言葉をいただく。
大学受験のときは高校の授業の時間というのが邪魔だった。退屈だったから。
通勤通学のないいまは余計な時間に縛られることなく、無駄な時間を省き机に向かえる。
ただ、今日はサプライズがあった。
47件の相談のうち1件、おばさまからの電話を受けた。
オペレーターから転送され、通話を開始する。
まず、おばさまは名前をおしえてください、と求める。
申し合わせ事項で〇✖会所属のものですと名乗ったあとは氏名は伝えないことになっている。
しょっぱなそれがおばさんの機嫌を損ねたようで、攻撃的なけんかを売るような口調になった。
まぁ、それは別に丁寧に対応すればいいことで質問事項に答えようと説明する。
あまり実務に慣れてないようだったこともあって、もっとわかりやすく教えなさいとすごまれる。
ヒステリックな女性といういい方はしたくない。
ただ、女性にかぎらず気に入らないことがあるとモバイルバッテリーが発火するようなひともいるのも事実だ。
そして着火すると自分で制御できなくなるケースもある。
暴走すると赤信号を無視してでも突っ走る。
冷静に対応して言い返したりしない。売り言葉に買い言葉は相談員として欠格だ。
ただ、このまま、話を聞こうとしない、理解できない人と話していてもらちがあかないと判断してこれ以上この電話で相談は続けられない旨を伝えて電話を終えようとすると、
この応対のことを訴える、電話の時刻も記録してある、とヒートアップする。
どうぞご自由にお好きなように、と灯油をかける。
おまえ、まさか炎上を楽しんでない?めったにないチャンスだと思って。
そして、〇✖▲◇■と汚い捨て台詞を吐いておばさんは電話を切ってしまった。
運営者にこんなやり取りがあったことを伝えてまた抗議の電話がかかってくるかもしれんからよろしくと。
担当は慣れたもんで、対応は問題なさそうですね、とひとこと。
余計なお世話だろうがこのホルムズ海峡の機雷のようなおばちゃん、日頃ご家族や友人たちとどう過ごしているのだろうか?

話はこれで終わらない。
その後何事もなかったように相談を受けていた。
しばらくして受けた電話にでると、
聞き覚えのある声、そしてさっきと同じ相談内容。
あれ、あなた、さっきの人?
はい。そうです、、、わたしもあなたの声でわかりました、、、
この相談センターは90人もの相談員が在籍していて、通話を終えるとすぐに新たな着信があり従事中は決められた休憩時間を除きしゃべりっぱなしだ。
受話器を置いた(受話器は置かないが)わずかな瞬間に転送される仕組みだから、相談者が順番につながるのを待っていて、そしてわたしが受話器をおいた瞬間に相談者と相談員がマッチングアプリのように一組のカップルが成立する。
相談員はずっとしゃべりっぱなしで、相談者はつながる瞬間をひたすら待っている。
あのおばちゃんとはぼくとは運命の糸でつながっているのだろうか。
ほぼマス目の90あるルーレットがぐるぐる回っている着席番号27番にコロンと転がり、おばちゃんは当たりを引く。
まずは90分の1の確率。加えてその90人がそのときたまたま受話器を置いた瞬間の確率。すざまじい偶然といえる。

またまくしたてられるのかとおもいきや、
「さきほどは、失礼しました」とおだやかな小さな声で詫びたのだ。
そして、わかったようなわからんような話をきいて相談を終えたあと、
地雷原女は「あなた学生さん?」という。
今年70のじいじに向かってなんてことを!
息子も通っている歯医者さんに予約の電話をすると、息子さんですか、お父さんですかと毎回聞かれる。
そのたびにバカボンのパパです、という。
そして、ぼくは
「そんなこと答える必要はない!」と火薬庫に火のついたたいまつを投げこんだ。
次の展開をまっていたのだけど、
「そうですか」であっけなく終わり。
信管の抜けた爆弾。
かれこれもう数千人からの相談を受けている。
この神田神保町の街は落ち着く。
へんなやつがうろうろしてないし、隠れ家のような店があったり、古本屋街であることが興味を引く特別な町。


