「苦海浄土」(くがいじょうど)石牟礼道子

著者は母と同じ1927年生まれ。天草出身の一介の主婦が1969年に発表した本書で水俣病の患者の苦しみと祈りを描いた。先月、2018年2月90歳で死去。私の敬愛する作家池澤夏樹さんが個人編集した「世界文学全集」に日本人作家の作品として唯一本作品を選んだことが気になって手にした。2018.3.17


石牟礼さんは一人の文学好きの主婦で「闘う人」ではなかったとか。そして、患者から聞き取ったことをそのまま引用した、というのでもない、という。取材、ルポルタージュの体裁をとってはいるが、社会派の作家にありがちなヒステリックな単なる告発本ではない。不知火の海で普通に漁をして暮らす水俣の人たちが有機水銀に身体と心を侵されていくさまをむしろ淡々と綴る。毒液を垂れ流す工場と因果関係を認めようとしない会社、立ち向かう医師、後手に回る行政。

衝撃的なユージンスミスの写真と相まって、水俣の人たちの暮らしが侵され壊されていくさまが痛々しい。石牟礼さんは「巫女」と呼ばれていた。水俣の地の、水俣病で苦しむ人たちの心の奥底にたどり着いて、賽ノ河原の小石をひとつひとつ拾うように言葉を掬って綴った、ということなのだろう。


昭和29年から散発的に発症した原因不明の四肢の麻痺と言語障害。熊本県衛生部が最初に厚生省に報告したのは私の生まれた翌日、昭和31年8月29日のことであった。

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還暦を迎えてますます円熟味を増す、気ままわがまま、ききわけのないおやじ

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