山手線の29の駅のうちもっとも寂しげでひっそりしているのはこの「鶯谷」であろう。4年間の北九州へ単身赴任しているあいだに、訪日観光客のために鉄道路線の各駅に記号(駅ナンバリングというらしい)、がつけられた。この鶯谷には「JY7」と「JK31」が付された。
隣はあの、「あぁ、上野駅」の天下の「うえの」である。駅の小さな入り口に自動改札が3台ほどある。この駅が「ひっそりしている」のには訳がある。よくご利用されていた諸兄にはいまさら説明するまでもないが、ここは「山手線きってのラブホテル街」を擁する駅で、一日中腕を組んだカップルが出入りしている。ひっそりしているからこうしたゾーンとなったのか、こうした店が多いためにひっそりしているのか、ともかく山手線の駅にはにはそれぞれの役目があり、役割を背負わされている。衣料品部、電気器具部、オタク部、乗り換え部などである。ここ「愛の宿」部の駅ではときに足早に人目をはばかりこっそりと、またあるときにはあっけらかんと嬉しそうにいちゃいちゃしながら改札を抜ける。この駅に降りるといけないこととは知りながら、これから宿に向かわれるのだろうか、経理部長ふうのおやじと若い娘さん、年が離れているこのお二人はどういうご関係なんだろうかとついつい観察・詮索してしまうようになった。もちろんこのエリアを除けば普通の暮らしがあるのだから、駅に色をつけることもないのだが。
それゆえ、山手線でありながら「奥座敷」のようなたたずまいを見せている。そのため、「JK31」というコードネームがつけられたのであろうか。むろん、「JK」とは女子高校生のことをさす。(京浜東北線のKです・JYが山手線・2016年より導入)
在職中、練馬から横浜までのJR定期券を持っていたおやじは帰宅途中、夜な夜な通勤途上のすべての駅に降りてそれぞれの街を時間をかけて突撃しながらつぶさに探検してきた。そして、この秘境ともいえる「鶯谷」の数少ないファンになったのである。ただし、誓っていうが「JK]と腕を組んであるいていたわけではない。昭和の店に弱いおやじのハートをわしづかみにしたのはこの店。改札口の真正面。
「大弘軒」。「Hotel Taikoken」 ではない!
あまり、ご紹介したくない。こっそり内緒にしておきたかった。この見事なまでの「昭和」。街の中華料理店ぶり。「おそ松くん」に登場する中華料理店そのまま。中に入るとはたぼーやチビ太がラーメンをすすっている。(ちなみに洋食店ではデカパン、フランス料理店ではイヤミ)客はいつもぱらぱら出たり入ったりで、ほどよい。しかも、典型的な東京のさっぱり味のしょうゆラーメン。一品料理もうるさがたのおやじが太鼓判をおす。若い女性が一人でやってくる店。いい店のメルクマールとしている「ビールの大瓶をだす」店。スポーツ新聞、週間現代などの脇役も健全に正しく置かれている。フロアの「おばちゃんの一歩手前」のおねえさんはきりっとした顔立ちで美人であることも、さらに気さくでありながらなれなれしくないところも途中下車してしまう理由である。チェーン店の「〇高屋」とか「福〇ん」とかではとても落ち着けない。そわそわきょろきょろしてしまう。チェーン店は「客が落ち着かないように」設計してあるからである。
そして、その隣の定食屋もまたいける。「大弘軒」は早々と閉店してしまうので、残業で遅くなった時の食事はここ「信濃路」。24時間営業。「やさぐれ度」も高い。なにも鶯谷で途中下車しなくても、と思っているあなた。品川、神田、秋葉原、御徒町、上野、日暮里、池袋があるのになぜ?とおっしゃるあなたにはこの優雅な楽しみはしょせんわかるまい!
2018.3.24