伊東は冷たい雨が降り続き、ヨットやクルーザーもしんみりしている。
遠くに見える初島も黒く霞んでぼやけて悲しく見える。
雨粒が傘からこぼれ落ちて首を濡らす。
毎日、なんてことなのない街に暮らしていると無性に海を見たくなったりする。暴風雨だろうとなんだろうと関係ない。うつむいた顔、はしゃいだ顔、さびしそうな顔、町はそんな顔を見せることがある。人となんにもかわらない。雨には雨の顔があっていいものだ。町のスーパーやホームセンターをのぞいてみたり、お店を開拓したりするだけで楽しい。
山方面は極悪台風19号のせいで高速道路があちこちで通行止めになり、八ヶ岳も軽井沢もアウトで、南房総も壊滅的被害を被ってのこのこ観光に出かけるどころではない。
東京で仕事して暮らしているとき、この伊豆の海がわたしの心のバランスを保つのに役立っていたのではないかと思うときがある。もう40年以上通っているのだ。
変化に富む海岸線を飽きずにながめ、遠くの水平線をぼんやり見つめて、潮風を頬で受けて、あの頃はあの頃なりの悩みを持ち込んでは反芻していたね。
美味しいものをいただいたり、温泉に浸かればあれやこれやのぐちゃぐちゃの思いが溶けて流れるわけじゃない。
ここには自分の心を揺らすゆりかごのような不思議な磁場があるのかもしれない。2019/10/18