江戸時の旗本「神保長治」の屋敷があったことから神田神保町となったこのエリアは大手出版社をはじめ、古書店数150軒の世界一の本屋街となっている。
年明けからテレフォン相談の相談員として皇居の近くのビルに通っている。
お茶の水駅から竹橋に向かう行きかえりの道すがらこの学生のまちを散策する。古書店のみならず若者の街らしく楽器やスポーツ用品専門店がひしめくなかにひっそりとした歴史のある洋食店だの喫茶店だの、お寿司に天ぷらやが入り交じる。
電話での相談は1日60件にもなるときがある。元請けからできるだけたくさん相談を受けるようハッパをかけられるもんだから、ひとつの相談を終え受話器を置き「受信可」のキーをプッシュするとすぐに新たな相談が待っている。
休憩はあるものの1日しゃべりっぱ、状態だ。
電話の向こうにいる見ず知らずの人のお姿は見えないけれども、ひとことふたこと会話するだけで人柄がわかる。いやでも伝わってくる。
相談内容は専門的であるため、なるだけ専門用語を使うことなくやさしく、わかりやすくが鉄則だ。
あらかじめ疑問点をまとめてから電話をしてくる方もおれば、何を相談していいのかわからないままかけてくる人、まちまちで、ふたことみこと聞き取っている間にその方がどのタイプか判断し、その人のレベルや癖に応じてギアを変える必要がある。
説明の後、まだ回線が切断されておらず相談者が気づかないままご家族と会話しているのがもれ聞こえることがある。
「うわーっ、むずかしくてよくわからんわ」と!
比較的簡単な部類の相談だったのになぜだろう?と首をひねる。
これがまさしく上から目線!気をつけよう。
決して少なくはない報酬に加え専門的な知識をさらに深めるためにあえて志願して従事しているのだけれど、そのほかにも大切な目的がある。
この自分勝手でわけのわからないことを一方的にしゃべってくる人たち、要領を得ない人たちとの会話力のスキルをあげること。
ひとことでいえばどんな人にでもやさしくわかりやすく話ができるようになりたいということ。いわば実践的な話し方教室。
お互いさまで決して自分が要領を得た会話をしているとはいえないけれど、3月までに千件ほどの相談を受けることになるなかで、この人は何がいいたいのか、聞きたいのか、いちばんの近道な聞き方、最短ルートを磨きたいと思っている。裏を返せば的外れで遠回りの対応がいかに多かったかということだ。
お互いがまわり道をせず、スムーズに目的が達せられるような聞き方を磨くことができるようこのテレフォン相談を今後も続けたい。
5時をすぎ、ヘッドセットを外し、ふーっと息をして一日の業務が終了。
おつかれさまのご褒美に今日はいきつけとなった老舗の天ぷらやさんで夕食をとることにする。
創業昭和6年。物静かな大将は3代目か。
戦後の文壇や映画界の重鎮たちが集うお店であったらしく腕組みする鉢巻き姿のおじいさまの笑顔がまぶしい。
単身赴任していた響灘や周防灘に囲まれた北九州は全国でもトップクラスの魚の宝庫で刺身でいただくなら申し分ないが、「鮨」と「天ぷら」と「うなぎ」に限ってはこの「はちまき」のような天丼800円の庶民的な店であってもレベルの高い江戸東京にはかなわないと思う。
魚のうまさにかまけて技術が磨かれなかったのかもしれない。
今日は奮発してあなご天丼、といっても1500円(税込み)。
ごま油がきつすぎる店が多いなかで、さらっとふわっとしてさくさくに揚がっていてあなごまるまる1匹追加でいただいてもまるでも胃にもたれることがない。
春はもうすぐ
テレホン相談員のお仕事、お疲れ様です。
私も何度かお世話になりました。
わざわざ出向かなくて良く、又親切に解りやすく教えてくださるのでとても有難いです。
ただこれを知らない方が多くて人の多い待ち時間の長い所に出向く方が多いようです。
私も天ぷらが食べたくなりました。
が、揚げ物は我慢
アンさま。ビールとてんぷらで喉を潤し、やさしさ忘れず、甘くうっとりするような声で電話応対したいと日夜精進しているところでございます。