カシオの電波腕時計が狂った。
スマホのケースの磁石が原因で3度目の反乱を起こした。これまでトリセツで修復してきたが今回はなだめすかしてもいうことをきいてくれない。
そこで中野で研修を受けた後、サンプラザの前のドンキで電波でないやつに買い替えることにした。
「ドンキ」はご存じの通り魔窟である。わざと売り場を迷宮のようにして、わざと商品を山積みし、視界を広角レンズにし、わざとあれもこれも買いたいとおもわせる仕掛け、ギミックでお客を魔法にかける。
ほかの店なら迷ったら思いとどまるのがふつうだけど、ドンキにいくと迷ったらかごに入れてしまっている。
通路は迷路になっていて息が苦しい。早く買い物をすませてラビリンスからさっさとでたくなるような心理戦も計算にいれている。
腕時計もさっさと買って帰ろうという気分になった、というか気分にさせられた。
かぎのかかったガラスケースをのぞきこみ、てきとーに選んで店員を呼んだ。
店員がお客にむらがるビックカメラのケータイや時計売り場なんかと違ってドンキには店員は少なくフロアーが無人状態になるときもある。なかなか店員が現れないからもういいやとこの店から出てしまおうかと思った。
精神的に「不安にさせる」作戦である。
カシオで苦労したから今回は松田セイコにした。男はやめて女の子にした。
得体のしれないドンキにならぶ正体不明の時計で、正体不明の客が買うんだからもとよりその出自や由来を確かめ問いかけるつもりはない。中国製ならまだいいほうで南極製でもシベリア製でもなんでもよかった。
磁石にまどわされず愚直に時を刻んでくれさえすればいい。こだわりなどあろうはずがない。
そして、バンドを調節してもらい手に付けてみる。そして会計を済ませお店をでる。ああ、これで息ができる。潜水艦が浮上してハッチをあけたような気分だった。
しかし店頭で曜日が違っていたことに気が付き調節しようと「りゅーず」をまわす。
すると、英語に続いて見慣れない横にょろの「アラビア文字」があらわれた。
これはたいへんとあわててハッチを閉め、急速潜航し売り場海域に引き返す。
そしてさきほどの店員を拿捕し検問する。
「これはセイコーが海外現地向けに生産したもので、英語表記のほかにアラビア文字がでるタイプです。」とこともなげにいう。
「あのう、ぼく、アラビア文字読めないし。」
「だったら、それならそうと、アラビアンタイプだとか表示しといてくれないと。」と涙目になって訴える。
説明によると、こうした海外生産の現地タイプの腕時計をマニアが好んで買いにくるのだという。
「ぼく、マニアじゃないし、ふつーの人だし。」とうそ泣きをする。
「そんなら、ぼくみたいんはビックカメラとかヤマダで買った方がいいんですね。」
「そのほーがいいかもしれません」と返品手続きを笑顔で気持ちよくすませくれた。
ショーケースには金のネックレスがこともなげになにもなかったように並んでいる。
いやはや、おそるべし「ドンキ」。
しかし、ビールにせよ食料品なんかは激安だことがわかり業務用スーパー「AーPrice」やめて練馬店に乗り換えることにする。
練馬店ではとんこつラーメン「一蘭」のあの伝説のカップ麺定価500円が箱積みされていてまんまとかごに入れさせられた。「箱積み」されてなかったらかごにいれなかった。SEIYUに並んでいたら素通りまちがいなし。
思えばCostocoやIKEAの商品山積倉庫作戦でこれまで何度もやられている。感動のあまりポップコーンを一生分を買ってしまい後悔したこともあった。店のおもうつぼになる傾向に注意しなくてはいけない。
そうだ、甲府の卸売市場の横にも「メガドンキ」があるのを思いだした。
「ドンキ」は魔界である。
そしてビックカメラ池袋店でふつーの時計を買うことができた。
2021/7/4