新規グランドオープンから1年4カ月。「ハタクロ」練馬店の店舗の様子をチェックするために本部による抜き打ち監査が行われる。
メンズのDゾーン、ウィメンズのMゾーン、そして店長のわたくしのHゾーン、監査で売り場ごとにA、B、C、Dの4つのランクに評価され厳しい人事評価がこれをもとに下される。
Aが良好で、Bがまあまあ、と続き空のハンガーがかかっていたり、商品が床に落ちていたり、お客が手にした商品がきちんとたたまれてなかったり、タグが外れていたり、売り場が売り場として保たれていないとき、Dランクとなる。
監査がはじまるこの日だけは普段は部屋にひきこもっているHは気が気ではない。
とくに時給1000円のPN(パートナー1)Dの売り場が気がかりだった。ダブルワークの着るものに無頓着な社員だったからである。
独身のDは甥っ子Rがことのほかかわいいらしくじいじ顔負けに溺愛している。
マックのおまけのおもちゃをあげたりするのが楽しみのようだ。
スタッフをあずかる身としてはおいおいかわいがる相手が違うだろう、もっと女の子のことをかわいがれよとにがにがしく思っている。
そして女性とは思えないおおざっぱなMシニアパートナーの売り場も頭痛の種だった。売り場に三毛猫が2匹出入りしうろついているとうわさされているからである。
本日の監査には会長の次男がじきじきにやってくるという。大学の同じ商学部の後輩だ。ということは第一志望校を落ちたということか。
事前に売り場をチェックすることにした。
まず、メンズのDの売り場をそっとのぞく。
すると目にとび込んできたのは床に殺人事件の現場のように散乱する脱ぎ捨てた服、靴下、、、、
本店監査より科捜研の女、沢口靖子に現場検証してもらう必要があるのではないか。
たたんである衣料品は皆無でひきだしにぱんぱんに押し込んであるだけ。
夏だというのにヒートテックやフリースがハンガーにかかっていたり夏服冬服かまわずディスプレイされている。
おまけにアキバのアイドルアニメのタオルみたいのも壁にかかっている。だれが売り場を「おいしくなーれ」にしていいといった。
さらに店長Hが探していた洗濯もののTシャツや靴下の片方だけが紛れていたりと惨憺たる状態だった。
たしかに会長のいうように「それはそれは、景気が低迷する日本のお客をビックロさせる素晴らしいごちゃごちゃ感」であった。
めまいがするのをこらえ、次の売り場ウィメンズのMゾーンにむかう。
うわさ通り猫が出入りするため、トイレに行けるようとびらはつねにわずかにあけてある。
すっととびらをひいてのぞいてみるとねむたげなにゃんが2匹めんどくさそうにあくびをしている。
店長がきたというのになんというありさま、なんという緊張感のなさ。
Mは「お客が服をひろげて見定めているそばから、たたんでまわるのはいやみっぽくいやらしい。」とかいって本部の指導にも従おうとしない。
ねこ店長にでもさせるつもりなのか。
「ハタクロ」は動物園ではない。
業者にあれだけ苦労して搬入させたピアノもほこりをかぶって、予言通り予想通りインテリアとなっている。
サイズもS、MはなくLばかりで体型を気にしなくていいゆったりしたあっぱっぱの商品だけがハンガーにかかっている。
自分が着るもんしか品ぞろえをしないふてぶてしさ。
クローゼットには「差し色となる死に筋の赤」(商品のメインに使っている色にもう一色赤をつけ加えた売れ筋ではない商品)が大量に眠っている。
「色売変」(いろうりへん 同じ商品でありながら色ごとに価格を変える)の商品の価格変更がされてない。
Mはシニアパートナーからアドバンスパートナーに降格必至である。
この店舗は「人時(にんじ)売上高」(売上÷人件費・ひとことでいえば人件費の何倍売り上げているか)が低いど赤字人件費倒れの不採算店舗である。
売上のもっともあがるはずの土日に開店時間すぎても店員がうだうだ寝ていることもある。
客が少ないと、「あー、今日は暇でいいわ」といいだすしまつでサービス残業ブラック店舗どころか店舗が店員にサービスしているようなものである。
そして、いちばんの問題は店長Hの売り場ドン・キホーテアンタッチャブルゾーンである、、、