甲斐駒ヶ岳の南アルプスの天然水をくむか、それとも富士吉田の富士山の天然水にするか迷っていた。中央高速道路の大月インターの甲府、河口湖方面分岐レーンの手前までどっちにするか優柔不断に迷っていた。
年齢を重ねるにしたがい毎日同じような生活をするようになる。
あまり新しいことに挑戦しなくなる。いきつけ店に通い、おなじようなものを食べ、読みなれた雑誌をめくり、その繰り返し。
これでいいんだろうか。
本屋に行ってもいつのまにか水が流れるように同じジャンルの棚のまえに立っている。脳軟化症ではなく脳硬化症である。(どっちもだめじゃん)
そして、太平洋戦争もの、江戸時代もの、パソコンいじり、税務会計法務関連のところに蝉のように蜜を吸いながら貼りついている。
これでいいわけない。
そんなことを思い、思い切って違う世界をのぞくようにしている。意識して違う道を歩くようにして。
「電気主任技術者試験2級」、「人体解剖図」、「積算資料住宅建築編2020」、「CanCan(この秋はあいまいカラーがちょうどいい!)」、「はらぺこあおむし」、「月刊ムー(浮揚大陸マゴニアの謎)」、、、
あるときは電気工事業者、またあるときは医師、1級建築士、またある時は若い女性に、幼稚園児になって、あおむしの気持ちに寄り添い、このかぎられた枠にしがみついている視野狭窄の自分から解放されたいと思う。
とはいえやりすぎもきんもつで戦艦大和の「設計図」を眺めていたとき、高校のチャート式数学2Aではとても太刀打ちできないことがすぐにわかった。
へんなやつは本人ががんばればがんばるほどさらにへんになっていく。それもこれも狭い視野の中でおんなじような暮らしをしているからにほかならない。
それで、大月インターの手前でとつぜん通いなれたこぶちさわにはいかず、富士山方面に分岐した。自分を変革するために。
新しい世界をひらこう、未知の世界に踏みだそう、いったことのないところへいこう。
リーフデ号はマゼラン海峡をこえて太平洋の荒海を超えジパングを目指したではないか。
ほどなく夜明け前の富士吉田の富士急ハイランドがみえてくる。
ド・ドンパで骨折した人たちはどうしているだろう、吉田のうどんじゃつまらん、うどんは博多の因幡うどんにかぎる、小倉井筒屋地下食品売り場の茅乃舎のおでんだしを4袋持ち帰ってよかった、とかいろんなことがとめどなく連鎖的にあたまにうかぶ。
そして中央高速の河口湖を降りようとしたとき、「東富士五湖道路」という有料道路の入口にさしかかった。
通ったことがない。いこう。新しい道を走ろう。
「東富士五湖道路」はがらがらだった。「自動車専用道路」っていうか「自分専用道路」だった。
わけはすぐわかった。
河口湖から須走までのわずか18キロの有料道路の通行料金が1080円のぼったくり道路だったため誰も利用していない。
自分を解き放つための道の対価として1080円もかかったのだ。
しかし、めげてはいけない。
道の駅「すばしり」(須走)で富士山の湧水をくめることがわかったことは救いだった。
「富士吉田」の道の駅は混雑していて、水汲みの順番待ちでトラブルもあるやに聞く。
ここはこじんまりとした穴場的な道の駅で喧噪や怒号とは無縁であって、しかも御殿場まで10キロそこそこ。
富士山の正体はこの赤茶けた火山岩。遠きにありて思うものだけど不用意に怒らせてはいけない。
これをさいわいに御殿場プレミアムアウトレットにいく。
「EAST」、「WEST」に加えあらたに「HILL ZONE」が完成しさらに88店舗が入ったことでアウトレット依存症のおばさんおねえさんも増えたのではないか。
その日は「genten」というお気に入りの革製品のショップで財布をもとめるというはっきりとした目的があった。10年使える財布の同じものを買い替える。
日本橋のショップをのぞいたけれどとても手が出ない。アウトレットなら4割引きで14,520円。ぼくにとっては6年間使うランドセルのようなもの。
革財布、バッグのgenten(ゲンテン)オンラインショップ (genten-onlineshop.jp)
ぼったくり有料道路があることと伊豆からの帰り道に天然水を気軽にくめることを知ったのは大きな収穫。
迷ったらいつもと違うこと、違う道を選ぶのがいつも新鮮な気持ちでいられる秘訣と結ぼう。
2021/9/24