今の時代、集客はネットがもっとも効果的と思っていた。
うちのアパートにも一度も下見にくることなく大手の入居あっせんサイトの写真付きの間取り図をみただけで女子大生が入居申し込みをした。サイトがよくできているといえばそれまでだけどそんな時代になった。
うちの事務所はとくに看板もだしていないしずっと奥まったところにある玄関にそれらしい小さなプレートを掲げているだけで電話番号すら表示していない。
知り合いからの紹介やいろんな活動でご縁のあった方から、そして会社から依頼されたりが主体だったため看板は必要ないと思っていた。
ところが、ご近所にお住いの高齢のお客さんから個人向けの仕事を依頼されることが続いた。
勘違いしていたのではないかと思った。
みんながみんなネットみて暮らしているわけではないのだ。
暮らしの生活圏がご近所のみというお年寄りたちがまわりには大勢いらっしゃるということに気が付いていなかった。
いまさらだけど練馬の住宅地は高齢者であふれていたのだった。いや日本中いたるところにあふれている。ワンやニャンもあふれている。これからは「高齢者」と「ワンやニャン」をターゲットに定め、いまはやりの言い回しでは「フォーカスして」邁進していこう。
東京には親から引き継いだ土地持ち高齢者がわんさといる。土地はあっても現金はあんましない人、もっているけど使いたくない人、枯れてしまって使い道のない人がごろごろいる。
富士見台駅で定点観察したら、おとしよりが滝が流れるように流れていた。いまはなきとしまえんの流れるプールのように、富裕層と浮遊層が入り乱れ流れている。歌舞伎町でキャッチセールスするより富士見台駅前で声をかけたほうがキャッチできる確率は高いと確信した。
そこで、看板を掲げることにした。せめてみなさんのお近くでぼくがこんな仕事してますよ、みなさんのお役に立ちたいと日夜願っておりますよと。
業者を探す。もちろんネットで(笑)
見積もりをとる。遊びごころいのちの業者もある。
とつぜん練馬の閑静な住宅街にあらわれたぽんぽこたぬきの看板、
串焼きバカの参上、ろくろ首、しめ縄、I Love ❤ねりま、、、、
ここは看板に魂を入れる会社で、インパクトこそいのちと謳う。
ところがいたってまじめな会社で、
この道30年の現場チームのリーダー宮前さんのお顔は職人そのもの。
看板屋は苦労が絶えない。「まかせる」といわれて制作した看板にかぎって「これはイメージと違う」といわれる。いちいちこまかく注文する」「値切る」業者のほうがまだ信頼できるという。
払う気があるから値切る。歌舞伎町などでは取り付けたあと代金を請求に行くと「オーナーがかわった。払えない。わしらは『善意の第三者だ』」とまでいう業者までいる。
先日東京シティーボランティアガイドのZOOM講習を受けた。
関東大震災後に流行した昭和の看板建築だった。東京大空襲でほとんどが焼失したけれど、神田あたりなどにはいまも現役の建物が残っている。
西洋風でありながら和の意匠をこらし、東京に点在するこれらの建物は文化遺産でもあると思う。
看板は当時の、いまの文化風俗をそのまま映す鏡のようでもある。
インパクトがあってみんなの注目を集めるけど、後ろ指される、あとずさりされる看板ではどうしたもんか。
興和サイン㈱さんのキャッチフレーズは
「看板に愛、人に笑顔、街に幸せを」
あの人はおもしろいけど結婚の相手としてはわははは、にならないようお年寄りのハートをわしづかみする入魂の看板をここに発注しよう。
みなさんのお役に立ちたいと日夜願っておりますよとその願いをしめ縄やぽんぽこたぬきに託し。
2021/11/27