パソコン復旧を祝い再度入店する。
昼は午後3時までの営業につき2時の入店だと1時間しかない。
気の強そうなおばちゃんではなく今日はやさしげなおばあさんがテーブルを消毒し拭いていた。
注文のあと気になっていた「この店はいつからやっているか」と訊いてみた。
「いまやっているのが3代目だからもう80年になる。」という。
どうやらおばあちゃんは2代目の奥さんでもう80はゆうに超えている感じだった。
戦前の創業となると檀一男や太宰治がやってきたというのがいきなり現実味を帯びてきた。
「昭和の町中華」の大御所的な存在だ。
その歴史があるぶん注文も手数を要した。
すでにメニューの概要をマスターしたうえでやってきていて今回は「あじ三枚つきの盛り合わせ」②にすると決めていた。
おばあちゃんは、「盛り合わせ②」でよかったかを3回ほど確認した。
3代目がいる厨房に注文を伝えるとき、ビールの大瓶を運んできたとき、ほかの客がやってきて注文とったあとの帰り道にの3回。
その、「ほかの客」の60ほどのおやっさんはよせばいいのに「ワンタン」を注文した。
やっちまいそうな予感がした。
おばあちゃんは「ワンタンメン?」と訊く。
「ワンタンメンじゃなくてワンタンね」とこういう問答が起こるであろうことを予測していた紳士はやさしくおばあちゃんをいたわる。
そして、おばあちゃんは厨房の3代目に注文を伝える。
すると、3代目は「ワンタンメン」じゃないのかとお母さんに念押しする。
おばあちゃんはきまり悪そうに再び紳士のところにいく。
やはり、注文が確定するまでに3回のやりとりを要した。
ともあれ、昼過ぎに温厚な紳士が「ワンタン」の単品を注文するのもいかがなものか、と思った。
周知のとおり「ワンタン」は食事ではない。スープの中にうかぶの雲のきれはしの衣のようなぺらぺらの、つまみにもならん中途半端な一品である。
「ラーメン」とひとこといえばこじれずにそれでまるくすんだ。
紳士は「小腹が空いて食べてみたくなった」と弁明するのだろうがもう遅い。
「ワンタン注文念押し」問題はじつは町中華ではわりとおきやすく小競り合いに発展することもある。
肩幅が松原智恵子くらいのお母さんは若いころはきれいだったろうな。
2代目は浜田光男似で。
今日は運よくおばあちゃんと会えた。
これが、わたしの愛してやまない「昭和の食堂」の景色である。