昨夜からの雨も朝にはあがって、京の大路には秋の日ざしがまぶしい。忠範は目を細めながら歩いていた。
はるかに比叡の山が見える。
比叡山は、どっしりとした山だ。四明ヶ岳、大比叡の連峰から東山にかけて、ゆるやかな稜線が続く。
その美しい遠景を断ち切るかのように、異様な高さの塔がそそりたっていた。法勝寺の八角九重塔である。
鴨川の東岸、白河の一角にそびえたつその塔は、東寺の五重塔をはるかにしのぐ、おそるべき高さの仏塔だった。
「親鸞」のかきだしはこのように法勝寺の九重塔の描写ではじまる。
地震と落雷で焼失してしまったいまはなき幻の九重の塔。
東山三条をベースに南禅寺や知恩院、八坂神社などは何度も訪れていたにもかかわらず、この幻の塔のことは知らなかった。平安神宮と動物園にまったく興味がなかったせいでもある。
千年近く前に建てられた「現在の20~27階建てのビルに相当」する八角形の塔。
多分に天皇家により政治的な側面から建立された巨大な塔。往時の様子を思い描きながら散策してみよう。
今週末の京都は「二条」特集でいこう。あっちこっちうろうろせずに特集を組もう、といいたいところだけど「二条通り」だけでもとても深堀りできないほど京都は奥深い。
仕事に追われていた現職のときに訪れた京都とはまったくといっていいほど違う気分で京都といま向き合える。それはこれまで大半の時間を組織に捧げてきたからである。生活の大部分が仕事を中心に回っていた。
定年後、やることがないとぼやいている人ならずっと「勤務」していたほうがおくさんに疎まれ、邪魔者扱いされずに済むしなにより本人のしあわせのためになろう。
せわしないかけあしのお寺巡りなどいまはどうでもいい。一か所の定点観測でもいいくらいに思っている。
宿泊予定の二条城周辺はあまり知らないゾーンでもあり、今回は「妙心寺」(全国の臨済宗妙心寺派の3350寺の大本山)、その塔頭のひとつである「退蔵院」を訪ねてみたい。
日本最大の禅寺|京都花園 臨済宗大本山 妙心寺 公式サイト (myoshinji.or.jp)
冬に庭に植えた修善寺生まれのいろはもみじが芽吹いてけなげでかわいらしい。
この子が青く、そして赤く染まる日がくるのが楽しみ。