西武池袋線「富士見台」駅構内にある「京王ストアー」で夕食の買い物をする。
なにやらいつもと様子が違う。
見かけないこの人が横たわっていた。
ちょうど3時から解体されるために「境港産」の本マグロが。
ショーの観客は10人ほどなもんだから、板さんはもう少し待ちますかね、とぼやく。
このワゴンがガラガラと調理場に運ばれ、紡錘形の巨体はまな板に寝かされる。
手術室に向かう。
いわずとしれた海の勇者はいま、陸に上がって見世物にされる。
家族はどんな思いでいることだろう。
頭が落とされ、小伝馬町の処刑場のようにさらされる。
品川の鈴ヶ森にせよ、千住の小塚原にせよ処刑場は江戸にやってくる人々に江戸で悪さをするとこんな目にあうのだぞ、とあえて街道沿いにおかれた。京都の東の玄関口の粟田口もそうらしい。
さいきん知ったところによると新宿の甲州街道の「笹塚」も重罪人の処刑場があって、罪人の両足を2頭の牛に縛り付けて引かせる「股裂き」の刑もあったというから恐ろしい。やくざ映画でケーシー高峰が両足をバイクにつながれぶんぶんやられたシーンを思い出した。
「塚」という地名はもともと「墳墓」からきている。先人のつけた地名はかならず意味があって、不動産業者がネガティブな地名のあたりを開発するときは、きまって「美しが丘」だの「希望ヶ丘」、「光が丘」だのきらきら名にしてしまう。あの悪評高い大阪万博が開催されるごみの埋め立て地のメタンガス「夢洲」もまさにそう。「豊洲」はごみが豊かな洲というところか。「龍」がつけば氾濫する暴れ川だし、「蛇」もやばいらしい。川崎の「悪津」(あくつ)は「明津」に地名変更した。大暴れする多摩川流域は全滅だろうな。
笹塚の友人に股裂きがどんなにきついか思い知らせてやろうと思う。
もっと、中国マフィアのもっている青龍刀のようなんで解体するかとおもいきや、長めの普通の包丁だった。
執刀はすしざんまいの豪快おやじが呼ばれたわけではなく、若い色白のおにいだった。
ぼく的には、日本統一の本宮泰風あたりに包丁を握ってほしかった。
あんちゃんはなかなかやる。
切り分けたとき観衆から拍手が起きた。
うしろに控えた人前は苦手そうな職人さんたちがさくに切り分けておばちゃんが次々にパックに詰めていく。
赤身が1,500円、中トロが2,000円、大トロが2,500円。
家族に実況中継したのがまずかった。
まぐろに目がない孫の幼稚園児が「びっくりしてみている!」と返信があった。
幼児にこんなぜいたくさせちゃいけん、と思っていたところ、あの子の姿が目に浮かび、赤身と中トロのパックをかごに入れるはめになった。
おととい6歳になったばかりだけど、小学2年生くらいに見える。
なんもアナウンスなかったけど、レシートを見てみると2割引きの特売扱いになっていた。