
いつもチケット売り出し時間すぐに席をおさえる。
「国立」だから四民平等、老若男女わけへだてなくチケットがとれるはず。
なのに6月分の売り出しに異変が起きていた。
販売開始早々、あらかたほとんどの席が埋まっていた。
24日の公演だけ空席を見つけた。
なぞは解けた。


私学の中高一貫校の生徒たちの大群に占拠されていたのだった。
見所はバケツの中の蟹のようにさわがしい。

6月の公演は能楽の「鑑賞教室」でこのような蟹たちのために企画されて、冊子も用意されていた。
じいじ、ばあばたちは後方席の一角に追いやられて。

蟹たちのための冊子。




どうにかして伝統芸能に親しんでもらいたいという思いがぷんぷんする。
吉本芸人のテンポの速さとトークの炸裂に慣れた生徒たち、YouTubu を2倍速で眺めている子たち(あんたもやん)にとって能はいかにもまどろこっしく、意味不明で、コント、コメディーである狂言すら退屈に思えるだろう。
でも、この鑑賞教室はいい企画だと思う。
ぼくらは天井桟敷の人々でいいと思える。
30分ほどの能楽師からのガイダンスもよかった。
途中、能楽師は生徒たちに挙手を求めた。
「お能を観たことのある人」と。
すると、なんと1割から2割の子たちが手をあげた。
なるほどこれが東京の、中高一貫校の私学か。
京都や大阪、博多あたりだと鑑賞の機会もあろう。
一生出会うことも、鑑賞することもなく過ごす人が大半なのではないだろうか。
今回の狂言の演目はわかりやすく人気のある「附子」(ぶす)
そう、あの「ぶす」のこと。もともと附子は「とりかぶと」の塊根のことで、
漢方薬となる薬草ではあるけれど、ご存じのように「毒」。
処方すると顔の筋肉が動かなくなって無表情になる。
その様のことを附子と呼び、
転じて容姿が醜いもののことを「ブス」と呼ぶようになった、とか。
