仕事の打ち合わせで学生時代以来の、昭和50年代以来の東横線武蔵小杉下車。
横浜鶴見での勤務のさいに湘南新宿ライナーを通勤で使ったりしていたため、通過する武蔵小杉にただならぬことが起きていることは知っていた。
しかし、通過するのと降りるのとでは大違いで、あまりのさまがわりぶりに口を開けてポカーンとしていた。
横須賀線の開通をきっかけに電機メーカーの工場の敷地跡の再開発が進んでタワマンが樹齢400年の樹の林のようになっている。
NECのおひざもと。
打ち合わせの前に徘徊してみる。徘徊の練習だ。
「グランツリー」というタワーのなかの商業施設が印象に残った。
どうせ、どこにでもあるショッピングセンターだろうよと小ばかにしながら買い物するでもなくうろついてみるとやたら小さな子供連れが多いのに気づいた。
なんとフロア全部が子供のための、キッズフロアになっている。麻雀でいえば「子一色」(コーイーソー)でそのいさぎよさは見事というほかない。
このプロジェクターの前で子供が踊ったり暴れたりすると子供の顔がひまわりやスイカで縁取りされ、花もいっしょになってわいわいほいほい踊るしかけになっている。
大いに暴れた後はフードコートでおやつ食べたりする。キッズにとって「暴れていい」施設はおけいこごとより大事だと思う。
ここは徹底的にベビーやキッズのために特化したモール。だからちび連れが集まる。ちびのまわりには若殿様と老中のようにじじばばが従う。お金はあるがやることのないじじばばの財布をあてにしたママもその気のゆるみとすきとチャンスをあざとく狙う。パパはタワマンの頭金とローンでいっぱいいっぱいだからママのかわいい孫を使った手練手管が研ぎ澄まされる一方でおなじ速度で孫に魔法をかけられたじじばばの正常な判断能力は衰えていく。その正常な判断能力の衰えたじじばばがここにまるごと集められ一網打尽にされる。ここでのじじばばの表情には年金2000万円不足問題の陰は見えないし、孫の喜ぶ顔が見たいじいじばあばの喜ぶ顔もいいものだ。
「赤ちゃん本舗」から、なんちゃらかんちゃらという店から、キッズ、ベビー、ティーンズのためのショップばかり集まっている。
つねづねイオンみたいな全国のショッピングモールにはあきあきしていて、なんか、こう、がつんとくるような、わくわくするような、こころときめく施設はないものかと思っていた。
わたしたちの頃であれば、「百貨店」がそうだったように。バスに乗ってわざわざいってみたい、ワンダーランド。「ディズニーランド」がそうであったように。
この試みはアクセスのよさとタワマンや周辺の地域の購買力の高さあってのことだろうが、ひろびろとしたフロアでもこどもたちやおかあさん、おばあちゃんたちで埋まっている。コンセプトのない寄せ集めのモールはいずれ見向きもされなくなるだろう。
北九州の破綻した遊園地「スペースワールド」の跡地にイオンが地域の購買力や経済規模を度外視した巨大アウトレットをつくろうとしている。余計なお世話かもしれないが、イオンの得意な地元商店街駆逐型の「家賃を払える店をただやみくもに集めただけのありきたりのインパクトのない」アウトレットになってしまうのではないか心配している。
ぼくたちが学生の頃川崎市の人口は90万人くらいだったが、いまでは152万8441人(令和元年7月)に増えている。博多と同じくらいだ。
武蔵小杉は横須賀線で東京まで乗り換えなしの18分、東横線で渋谷まで18分、多摩川をはさんで対岸はあの田園調布の高級住宅街。この中原区は川崎市から離脱して練馬区にかわって東京23区入りしたほうがいいかもしれない。
それでも、駅前にはじいじの居場所の昭和がかすかに残っている。あのせわしない「フードコート」は苦手だ。
川崎は北九州とおともだちかとずっと思っていた。遠く離れてはいても似たものどうしずっとおともだちでいようねって指切りしていた。工場、騒音、煙、トラック、3交代の工員、作業服、安酒場、飲んだくれ、町のにおい。
やっとかんちがいに気がついた。もうお友達にしてもらえないような気がする。遊んでもらえないような気がする。お金持ちの東京と遊ぶことが多くなって、いい服着てお高くとまって、あんたたちとはもうあそんであげないとさ。おとうさんがあの子たちとあそんじゃだめだってさ。なにさ!とタワマンに石を投げつけて、ピンポンダッシュしてやる。
練馬から西武池袋線と地下鉄、東横線の直通運転で池袋、新宿、渋谷経由の乗り換えなしでいけるようになった。2019.8.15