角川ソフィア文庫 新刊(2019年8月25日初版)
120年ほど前(日清戦争と日露戦争をはさむ時期)に東京帝国大学で英語で行った講義録のうち重要と思われる講義録の新訳である。
作家としてだけではなく「語り部」として日本の学生に向けてレクチャーしたものを彼の教え子の学生たちが克明に口述筆記したものである。筆記者にはハーンの信認の厚かった松江中学以来の大谷正信、のちにはハーンの優れた評伝、おそらくもっとも優れた、を残した田部隆二の名があがっている。
1904年の没後十数年後に出版された。「生前にこうした講義録出版の動きを察知したなら、草稿もつくらず、わずかなメモだけを頼りに話したものゆえ、文章にやかましかった彼が、講義録の出版を承諾したとはとうてい考えられない」(訳者あとがき)とあるがまさにそのとおりであろうとうなずいた。
ハーンの著作は「恒文社」から多く訳出・出版されている。その恒文社の創設者は池田恒夫氏であり、ベースボールマガジン社の創設者でもある。
ハーンに関する優れた著作をもつ工藤美代子氏はなんと池田恒夫氏の娘で、この講義録の訳者である池田雅之氏はいとこにあたる、という。
まさに、ハーンの家族ぐるみの応援団である。
そして池田雅之氏は早稲田大学の名誉教授でありながら「NPO法人鎌倉てらこや」の前理事長(現在は顧問)であり、こどもの居場所づくりに尽力されているという。
さまざまな活動理念のなかのひとつ居場所づくり。「秘密基地」「逃げ場」、空き地や草むら、駄菓子屋なんかがなくなってしまって子供たちは窒息しそうになっているのかもしれない。
鎌倉という山あり海あり、お寺ありのうらやましい恵まれたロケーションでの大学生が活動主体のベースづくり。
練馬は「山なし海なしお寺なし」のやれやれどうしたものかの場所柄だけど息苦しい子供たちはたくさんいるはず。
2019/10/29