無類のお茶好きだ。
それもたっぷりいただく。
夜明け前に目覚め、顔を洗い、ティファールのケトルに白州の天然水を注ぎ、急須を用意する。
お茶葉をやけどさせないようにするために注意深くぶつぶつ沸く音で温度を感じとってスイッチを切る。
一杯目はぬるめで甘さを引き出し、三杯目は熱めにして渋みを楽しむ。
そして、茶碗は必ずこの有田焼の350ミリリットルのビアマグを使う。
朝食までの4、5時間、それもがぶがぶ3杯以上お茶だけで過ごす。毎日朝だけで1リットル以上飲んでいる計算だ。
このビアマグは忘れもしない15年前の夏、夏休みがとれず9月半ばになってようやくとれた休暇で訪れた有田で購入したものだ。
有田焼の工場団地に並ぶ10店舗くらいの商店の玄関先に置かれたアウトレット商品で、確か2千円だった。
卸団地をくまなくぐるぐる3周くらい回って品定めをして、落ち着いた職人さんふうの店のおじさんは「いいものが見つかりましたか?」と声をかけてくれた。
ほんとうの伴侶のように太ることも大きくなることも、皺がふえることもなく、退色もなく、ひび割れも欠けることもなくつきあってくれている最高の伴侶だ。
陶器には陶器の、磁器には磁器のよさがあり、陶器にはあたたかいぬくもりを、磁器には気品と高貴さを感じる。
色絵 梅菊文【ビアジョッキ 】
これまでの仕事の中でいちばんしんどい仕事をしているときで、同時に一方でいちばん自分が成長していた1年間でもあった。正確には自分で自分を変化させていった、仕事に適合、順応させていったということだ。
とんでもない環境になげこまれないと人は成長しない。
自分のペースでたらたらやっていても化学反応はおきない。
ひと段落ついてようやくもらった休暇で有田焼の窯元のレンガの煙突の茶色とそこから立ち上る白っぽい煙と道端の彼岸花の紅色があざやかな初秋であった。
いらい、このビアマグはそのころのいとおしい自分へのおみやげとして朝の親友、同僚となった。
サラリーマンやっているときは土日以外朝からお茶を楽しむ余裕はあるはずもなく家をでたが、退職後、そして自営業者になってからは毎朝のルーティーンとなっている。
飽きることなく連れ添っているのはどことなくふくよかな女性的なフォルムだからでもあろうか。
この窯元は「賞美堂」という。
同じ図柄のビアマグはいまでもかわらず売られていて5500円の値がついている。
革製品などいいものは長持ちするばかりか使い込むうちに味わいを増すものだ。
こんなにも長く愛用している茶器はない。というか品物はない。直接お礼に伺い、感謝を伝えたい。
有田焼は往時からすると飲食店や旅館などからの注文が減少しているという。
それにコロナの影響でさらに深刻な打撃を受けていることだろう。
お前が応援せんでだれがすると!
おそろいの急須を発注した。
2021/1/31