2022年に岩波文庫が30冊を一括重版した。毎年このように重版をリリースしている模様。
ながいこと品切れだった名著を印刷して世に出す試みで、それだけいまなお生き続ける名著を求める声があるのだろう。
先般、東京の貧民街(細民)を調べていていきついたのがこの著作。
横山源之助の「日本の下層社会」は有名すぎるし、またの機会に。
ところで、いまどきの若者たちは「岩波文庫」など読むのだろうか。
学生の頃、「岩波文庫」は世界の思想、哲学、歴史などの学術性の高いものだけを集めていてそのステータスはとても高かった。その読者の仲間入りしようと幾たびも世界の名著に挑戦したが、そのたびに挫折したものだ。
これは明治26年に世に出たもので、日清戦争の前の東京の下層社会に暮らす貧民たちの生活実態をえがいている。たんなる見聞録ではなくみずからがそこに身を置き、そこで職を得て、彼らとともに暮らす中で綴った渾身の突撃ルポルタージュである。
序文からしてその覚悟に圧倒される。「貧天地」の実態がそれほどすざまじかったということだ。
「細民生活の真状を筆端に掬(むす)ばんと約して(〇心・きしん*漢字を変換できず)に鞭打ち飄然と身を最下層飢寒の窟に投じぬ。」
産業革命の頃のロンドンもそうであったように、当時は日本だけでなく世界中で低賃金、過酷な労働条件のもとで、あるいは乞食となって生きていかざるを得ない貧民の問題はあった。
それはいまの日本でもその形を変えて程度の差こそあれ新たな貧困問題となってあらわれている。
この捨て身のルポルタージュから何をくみとることができるか。
いまでは不衛生な「残飯屋」はないけれど、スーパーの総菜が半額以下にならないと買えない人たちも多くいる。
子ども食堂やフードバンクをあてにして暮らす家族もいる。
舞台は下谷山伏町万年町よりスタートする。
どのあたりだろうとググると最初にヒットしたのが「都市探検家」黒沢さんのサイト。
ぼくもぼくだけど黒沢さんも黒沢さんだわ。
立ち入ることのないゾーンではある。
和風の安宿やらバイクのショップが多かったような。
どうやら黒沢さんは「貧民窟」、「廃墟」「廃景」「廃道」など「廃」のつく景色をこよなく愛しているお方のようだ。
「蒸気客車を連絡せるごとき棟割りの長屋にして、東西に長く、南北に短く斜めに伸びて縦横に列(つら)なり、」とあり、「府下15区の内にて最多数の廃屋を集めたる例の貧民窟」と表している。