今回の旅の目的地は「阿武町の道の駅」とここ「うどん自販機の聖地」
きっかけはNHKの「ドキュメント72時間」
TVはほとんど見なくなったがこの番組はかかさず録画している。
72時間の定点観測によるそこにやってくるひとたちの人間模様を記録するすぐれた番組だ。
その時代の人々の暮らし・風俗・風景、そして情景を記録した現代の「新日本紀行」といってもいい。
ふるさとを離れて暮らしていた人が親の介護のため地元に帰ってきているなか、それぞれの事情を抱えながら自販機の前にやってくる。
うどん自販機が支持されているのはひとつに深夜早朝営業の飲食店がこのあたりいったい国道9号線であるにもかかわらず皆無であるのと、うどんが天ぷらとともに丁寧においしくつくられていて、しかも350円という価格設定であることによるのだろう。
もともと後藤商店はお弁当・仕出しの店だからうどんがおいしいのはうなづける。
一年に数度しかお店でうどんを食べない(東京だからしかたない)ぼくでもおもわず手を合わせたくなるレベルだった。
早朝、毎日食べるというトラック運転手のおやっさんとお話しさせてもらったが、「毎日」というのがそれを証明している。
七味がからになっていて困っていたら、食べかけのプラスチックのどんぶりをおいて、自販機の割りばしが置いてあるとなりの奥底に手をつっこみまさぐってここに小袋があると教えてくれた。
この先にも2台同じ年代物の自販機が置いてある。
早朝にアベックがやってきた。ずぶずぶべったりなかんじの二十歳くらいの子たちはやたら路肩の広いスペースに停めた(駐車場はない)軽自動車の中にうどんを持って行った。
いちゃいちゃできるときは思う存分心いくまでいちゃついてほしい。
厨房から出てきたおばあちゃんは補充するどんぶりをトレーに抱えていそがしそうだった。
自販機は交換する部品のないまま最後の力をふり絞って現役で活躍している。
戦争末期のゼロ戦の機体のようだった。
もう10円玉を受け付ける元気もない。
「ドキュメンタリー72時間」のせいでたくさんのお客さんがやってきた。
ぼくの目にもとまってしまった。
自販機として24時間365日何十年働きづめで引退して悠々自適のくらしをするつもりだっただろうがもうひとがんばりしてもらうことになった。
妹夫妻は毎年恒例の出雲大社へのお参りに行っている。そこの老舗旅館(竹内まりあの実家)で宍道湖の名物なんかをおいしくいただいているはずだ。
妹たちが通された旅館の部屋は松江の祖父の家にそっくりな和室で妹は懐かしい、といっている。夏休みに子供たちみんなで蚊帳を吊って寝た、小学生の頃の夏休みの思い出。
怪談の「亡霊怪猫屋敷」をみて、トイレにいけなくなった。
田舎だし、大工さんが同じということもじゅうぶんありうる、それくらいそっくりなつくり。
でも、ごちそうよりぼくはこのいとおしい後藤商店の、傷だらけの自販機のうどんのほうがいい。