2017年6月3日

「消費者契約法」違反で書類送検。自称「真鯛釣師」

(前号より続く)さて、器量よしの、真鯛とイトヨリはお寿司屋さんに買い取ってもらった。もう一人の器量よしの真鯛は仕入れてもうりきれるかどうかわからないので、ひきとれませんといわれてしまった。そして根魚のアラさんたちは、高級魚ではあるが寿司ネタとしては人気がないとの理由で引き取ってもらえない。まるごと売れると信じていたのでぼーぜんとする。船長に船のいけすから上げてすぐに神経締めしてもらい、完璧な下処理がされている。思えばお店はお店で毎日仕入れをしており、買取システムを採用してるとはいえ、釣れるかどうかもわからないホラ吹き釣り人の持ち込みをあてにするわけにもいかず、普段通り仕入れているわけだ。途方にくれている場合ではない。同じ寿司屋の小倉南店に電話をかけてみる。「4時ごろに仕入れの担当が帰ってくるのでその頃もういちど連絡ください」との頼りなさそうなか細い声の店員の回答。


先に古賀の自宅に帰り着いた同僚からは、近くの生協でさばいてもらいました、と写メが送られてきた。3キロ以上1,300円でこんなふうなパックにしてくれる。「喜んでやってくれました。近所に配って回りました。」と添えられている。近所の人たちの喜ぶ姿が目に浮かぶ。ところがいまのおやじの精神状態では、この行為は「これ見よがし」という、いじめの一形態に映った。古賀にはいじめの意思などあるはずもない。ところが何気ないラインがおやじをさらに追い詰める。世の中にはこんなシーンが渦巻いているのだ。


一方のおやじは焦っていた。小倉南区曽根まで車を走らせる。4時ごろ店員に見てもらうことになった。若い気が弱そうな店員が勝手口よりでてきた。ところが、「買取担当は3時までに連絡いただくと、5時までお店にいるんですが。もう帰ってしまっています。」「はあっ!、さっき電話したのに!」とおやじ。「それに生簀から真鯛をあげたばかりで、、、」店員。「買い取りはできないってことか!」おやじ。ぼーぜんと立ち尽くし天を見上げる。「すみません、、」と蚊の鳴くような声で下を向いてうなだれる店員。「私は単身赴任で、家族もいないし、まな板も出刃包丁もない!知り合いの居酒屋もない!いっしょに釣りをした奴らは、自宅に持って帰っても、なんで持って帰ってきたと、かあちゃんに怒られるといっている。特に古賀の同僚は明日が子供の運動会とかで絶対に持ち帰れない。もう一人は小さなクーラーボックスしか持ってきてなくて下関の実家に帰ってしまった!」と気弱な店員を睨み凄むおやじ。自分とはなんの関係もないことをたたみかけられる店員、さらに小さくかしこまる。腰に手をやり、日の暮れていく空を見上げ、しばし、天の声を聞く。「敬天愛人」。なぜか西郷隆盛を思い出し、天下国家を語りたくなる。そして人々の幸せを想う。大きく見えるおやじ。そして、学校の先生に怒られているみたいにしている店員に告げた。「よかろう」と。「買い取らなくともよい。引き取ってくれ。そして、お世話になった北九州、小倉の人たちに食べてもらってくれ。」と。「いいんですか?ほんとに!」とますます小さくなる店員。「うむ。」とおやじ。仏の化身と化したおやじを拝む店員。「余はこの真鯛をみんなが喜んで美味しいって食べてくれるだけで嬉しく思う。」と神々しいおやじの姿。クーラーボックスから取り出し、店から持ってきたステンレスのトレーに並べて見て、その大漁ぶりに二人して眼を見張る。


もとはといえば、予想外の大物が釣れてしまったことがどたばたの原因。それにしても、店員にとって、おやじが単身赴任だろうが、出刃包丁持ってようがいまいが、明日が同僚の子供の運動会だろうが、下関の実家に帰ろうが、なぁ〜んも関係ないことだ。仕入れの担当でもなく伝票も書けない。どうしようもないのだ。まるで、押し売りだ。自分がこのごろ高圧的、威圧的になってきたと感じる。はっと我に返る。翌日の朝刊の見出し。


福岡県警小倉中央署生活安全課は2017年5月19日、自称鯛釣師はたぼー(60歳)を「消費者契約法」違反の容疑で逮捕したと発表した。調べによると容疑者は当日角島沖で釣れた真鯛を市内の寿司チェーン店に持ち込み、買取を拒否されたことから逆上、買取の意思のない店員(23歳)に対し買取を執拗に強要し恫喝、困惑させた疑い。容疑者は容疑について一部否認し、「悪いのは同僚の息子の中学生の運動会が明日あることだ、とか、自宅に出刃包丁がないこと、下関の実家に帰った同僚が悪い、釣れすぎてしまった船の船長にも責任の一端がある」だのと意味不明の供述をしている。警察では余罪の有無の確認と、出刃包丁を購入し凶行に及ぶのではないかと警戒している。】


結局、この見事な鯛の刺身は口に入らずじまい。あとから、この鯛だけでも、捌いてもらえないか、って頼んでもよかったかな、と悔やんだ。でもその時は早朝から出航して、お昼も食べず、喉も渇き、早くビール飲みたい一心で、心の余裕もなかった。小倉駅前の繫華街にリヤカーひいて行商する気力もない。

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