2017年11月15日

Kazuo Ishiguro 「The Remains Of The Day」(「日の名残り」)

ノーベル賞の受賞の発表を受けて、あわてて書店に買い求めにいく人が殺到したはずだ。もとからイシグロさんの認知度は低く話題にのぼることもなかったために受賞は驚きをもってむかえられた。おやじも取り急ぎ殺到したが、もともとミステリー界の雄のハヤカワ書房は書店に在庫を置かない出版社で殺到しても一冊もない。白石書店若松店の文学少女ふうの店員も突然の受賞に困惑しているようすだった。それ以上に驚いたのが当のハヤカワ書房で急遽おおあわてで増刷を決めた。増刷されようやく受賞のほとぼりがさめたころに文庫版が手に入った。1989年に発表され受賞のきっかけとなった長編小説の文庫版の「内容紹介(裏表紙)」にはこう書かれている。

「品格ある執事の道を追求し続けてきたスティーブンスは、短い旅に出た。美しい田園風景の道すがら様々な思い出がよぎる。長年仕えたダーリントン卿への敬慕、執事の鏡だった亡父、女中頭への淡い想い、二つの大戦の間に邸内で催された重要な外交会議の数々ー過ぎ去りし思い出は、輝きを増して胸の中で生き続ける。失われつつある伝統的な英国を描いて世界中で大きな感動を呼んだ英国最高の文学賞、ブッカー賞受賞作。」

「世界中で大きな反響を呼んだ」とあるがおやじには反響は届いていない。隣近所、悪友、飲み友、飼いねこにも聞いてみたが「名前も知らなかった。」という。JR小倉駅に降り立ち、魚町商店街で道行くカップル、おじさん、おばさん、学生たちに突撃インタビューしてどれだけの人が読んだことがあるか聞いてみたい。常に書店で著書が平積みされ受賞候補の本命と目された村上春樹氏の国内での認知度に比べ、国民的作家ではないイシグロ氏の知名度は低い。このあらすじにあるとおり、失われつつある伝統的な英国、執事、英国貴族への敬慕など日本人にとって感情移入しづらい情景かもしれない。英国人作家なのだ。あらためてノーベル賞、とりわけ文学賞は欧米人の価値基準から見た評価であってこれまでの受賞でも首をかしげることの多い賞だと感じた。ともあれ、この文庫が2001年に発行されて以来2017年11月10日で33刷を重ね国内でも読者から支持を得ていることを思えば、ノーベル賞受賞にふさわしいかどうか判断する資格もなにもないというのが実際のところ。

時代背景は第1次大戦後のイギリス。有能な執事であった父とともに英米仏のドイツの戦後処理をめぐる陰の国際会議ともいえる貴族の館ダーリントンホールで催された会議での召使、女中それらを束ねる執事の献身的な働きが描かれている。そして主人から休暇をもらいイギリスの田園風景を楽しむための6日間のドライブにでかける。そして、その旅の中で父の死を乗り越え執事としての務めをはたしてきた満足感を自らのなかに見出し、さらに真の執事とはという問いに答を得る。

おやじの「自分探しの旅」と違いが際立つ作品である。おやじの自分探しの旅は、「取るに足らない自分の人生をからっぽの頭で振り返りながら探す旅」であり、「ただいたずらに電車に揺られているだけの旅」だ。イギリスの「執事」は使用人であるがわれわれの思い描く使用人ではない。偉大なジェントルマンに仕え、邸宅を整えゲストを歓待する準備をぬかりなく行う。「みずからの執事人生を振り返り、『わたしは偉大な紳士に仕えそのことによって人類に奉仕した』と断言できる執事こそ、真に偉大な執事であるに違いありますまい。」と結論付ける。「偉大さ」とはかならずしも「名家」ということではなく「徳の高さ」、「国家への献身」などで判断されるものである、と。

イギリスの上流階級の邸宅の様子やゲストたちとの会話が執事の目を通して描かれており、美しい田園風景を背景に、映画化されることを望む。

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