江戸を歩くとかならずこの人に会う。
「深川江戸資料館」にはこの人のコーナーもあった。
日本橋の呉服屋の娘で江戸の風俗をしっかりした時代考証をもとに旅に誘ってくれる。
「江戸からやってきた」と紹介される男っぽい娘さんだ。47才没。
1980年、22才のとき伝説の漫画雑誌「ガロ」で吉原を舞台にした作品で漫画家としてデビュー。
「銭湯」「落語」「相撲」そして「日本酒」「蕎麦屋」好きとすじがねいりの江戸女子だ。剣道部に所属していた。
驚いたことに旦那はあの荒俣宏。しかし結婚生活は半年で破綻している。
オカルトや妖怪物の特集にはかならず登場する鬼才。
私の敬愛する水木しげる先生とは出会ってたちまち意気投合しずぶずぶの仲であった。
この人の経歴がすごい。
なんと中学生の時に「世界恐怖小説全集」の翻訳を手がけた一人であった「平井呈一」氏に弟子入りしているのだ。
氏は小泉八雲研究の第一人者で1954年に「小泉八雲作品集(12巻)」「小泉八雲全集」(全訳)をそれぞれ筑摩書房、みすず書房から出版している。
平井氏は俳句の川東碧梧桐、永井荷風と佐藤春夫に師事。穏やかな正統派の紳士かと思いきや荷風の「断腸亭日記」のなかで平井は数々の悪さがもとで悪罵されている。終生江戸文化を愛し和服で通した。
この平井氏から荒俣は3度破門を言い渡されている。
荒俣氏は家業の非鉄金属卸の破綻がもとで5才の時と7歳の時の2度「夜逃げ」を経験している。板橋、そして練馬へ。
185センチの体躯から花籠部屋からスカウトがきたこともあるという。
慶應卒業後、日魯漁業に入社することになるのだが幼いころの夜逃げ生活でなじんだ魚の缶詰の味が縁であったという。
退社後平凡社の「世界大百科事典」の編纂にかかわる。
どうりで博識なわけだ。
杉浦日向子をきっかけに、はからずも荒俣宏、水木しげる、平井呈一と連鎖反応を起こしてしまった。
「ガロ」にもつなげたいがきりがないからこのへんで切り上げる。
2020/6/2